IT管理の基本
社内ITの棚卸し方法|端末・アカウント・契約を整理する
社内ITの棚卸しは、何から手を付ければよいか迷いやすい作業です。まずは社用の端末、会社名義のアカウント、契約中のサービスを一覧にすることから始めましょう。この記事では、IT専任者がいない小規模企業のご担当者に向けて、棚卸しの目的、進め方、よくつまずく点、社内で続ける範囲と外部に頼る範囲の分け方を整理します。
社内ITの棚卸しを始める前に決めておくこと
棚卸しとは、会社が使っているITの道具と契約を、一度書き出して現状を把握する作業です。社用パソコン、会社名義のメールやチャット、ファイル共有、業務ソフト、契約中のサービスなど、日々の業務で当たり前に使っているものを対象にします。目的は、不要な契約にお金を払い続ける状態を減らし、退職者のアカウントが残る状態を防ぎ、困ったときに誰が何を管理しているか分かるようにすることです。特別な道具は必要なく、表計算ソフトがあれば始められます。
最初に決めたいのは、棚卸しの範囲と担当者です。「今回は端末とアカウントだけ」のように範囲を絞ると、限られた人手でも終わりやすくなります。担当は一人に抱え込ませず、総務と現場の代表者が情報を持ち寄る形にすると、抜け漏れに気づきやすくなります。作業時間は一度にまとめて取るより、1回あたり30分から1時間の枠を何回かに分けて確保するほうが、通常業務と両立しやすいでしょう。
あわせて、書き出した情報の置き場所と見せる範囲も先に決めておきます。棚卸しの一覧には、契約情報やアカウントの管理者名など、社外に出したくない内容が含まれます。共有フォルダのアクセス権限を絞る、印刷物は施錠できる場所で保管するなど、扱い方を決めてから作業を始めると安心です。範囲と担当と保管場所の3点が決まれば、棚卸しは進めやすくなります。
対象になる端末・アカウント・契約の洗い出し方
洗い出しは、端末、アカウント、契約の3つの表に分けて進めると整理しやすくなります。端末の表には、機器の種類、利用者名、購入時期、保証やサポートの有無を記録します。アカウントの表には、サービス名、会社名義か個人名義か、管理者、利用者、用途を書きます。契約の表には、サービス名、契約名義、契約の窓口になっている人、支払い方法、更新や解約の時期をまとめます。金額を書く欄を設ける場合は、請求書や管理画面で確認できたものだけを記入しましょう。
情報の集め方は、経理の支払い記録と、現場への聞き取りの両方から集めると抜けにくくなります。経理の記録を見れば、毎月や毎年支払っているサービスを拾えます。一方で、無料で使い始めたツールや、担当者しか知らないアカウントは記録に残らないため、現場への確認が必要です。社用パソコンの台帳があれば、そこから利用者ごとの端末を確認できます。クラウドサービスの管理画面では、社内で利用中のアカウント一覧を確認できる場合があるので、管理者権限を持つ人に画面を見せてもらうのも有効です。
洗い出しの途中で、個人名義のアカウントで業務データを扱っている例が見つかることがあります。退職や担当変更のときに引き継げなくなる恐れがあるため、会社名義への切り替えや、データの移行先を検討する候補として記録しておきます。すべてを一度に直そうとすると負担が大きいので、まずは一覧に載せて、対応の優先順位を後から付けられる状態にしておくのが現実的です。
棚卸しを進める手順
目的と範囲を一文で書き出します。
誰が何のために、どの範囲を棚卸しするのかを決めておくと、途中で対象が広がりすぎるのを防げます。この一文は、作業後に結果を社内で共有するときの説明にも使えます。
経理の支払い記録から、契約中のサービスを書き出します。
毎月・毎年の支払いがあるものを拾い、サービス名、契約名義、支払い方法、更新や解約の時期を表に記入します。請求書が見つからないものは、いったん保留として印を付けておきましょう。
現場の担当者に聞き取り、無料で使っているツールや個人名義のアカウントを確認します。
業務で使っているチャット、ファイル共有、オンライン会議、業務ソフトを順に確認すると、聞き忘れが減ります。会社として管理すべきものかどうかを、この段階で判断する必要はありません。
社用パソコンと周辺機器の一覧を作ります。
機器の種類、利用者、購入時期、保証の有無、管理者アカウントの扱いを記録します。貸与している機器がある場合は、貸出先と返却の記録もあわせて確認しておきましょう。
一覧を突き合わせ、重複している契約、使われていないサービス、管理者が退職者になっているアカウントを洗い出します。
ここで見つかったものは、すぐに解約や削除をするのではなく、業務への影響を確認してから対応を決めます。
棚卸しの結果を更新できる形で保管し、次回の見直し時期を決めます。
一覧は作って終わりではなく、入社や退社、契約の変更のたびに書き換える前提のものにしておくと、日々の管理が楽になります。
見つかった問題への対応を優先する考え方
洗い出した問題は、すべてを同じ優先度で扱う必要はありません。優先度を考えるときは、業務が止まる可能性、情報が外部に漏れる可能性、毎月支払い続けている費用の3つの観点で見てみましょう。たとえば、退職者のアカウントが残っている状態は、情報の持ち出しや不正ログインの入り口になり得るため、対応を先にしたい項目です。使われていない有料サービスの解約は、業務への影響が小さい場合が多く、手続きの負担も比較的軽い項目といえます。
対応の順番を決めるときは、費用がかかるものと、設定の見直しだけで済むものを分けて考えると進めやすくなります。パスワードの変更、管理者権限の付け替え、共有範囲の見直しは、追加の費用をかけずに取り組める場合があります。一方で、契約プランの変更や機器の入れ替えには費用が伴うため、予算のタイミングと合わせて検討するのが現実的です。
見つかった問題の中には、社内だけで判断するのが難しいものもあります。社外に公開しているサーバーの設定や、法令に関わる保存の扱いなどは、提供元のサポートや外部の専門家に確認したほうが安全です。どこまでを社内で対応し、どこからを外部に頼るかは、次の節で整理します。
社内で続ける範囲と外部に頼る範囲の分け方
IT管理をすべて社内で抱える必要はありません。判断の目安として、変化が少なく手順が決まっている作業は社内で続けやすく、判断に専門知識が要る作業や緊急時の対応は外部に頼る範囲に向いています。社内で続けやすい例としては、端末の台帳更新、入社時のアカウント発行、退社時の利用停止、棚卸しの定期的な見直しなどがあります。これらは手順書にしておけば、担当者が変わっても引き継ぎやすくなります。
外部に頼る範囲の例としては、ネットワーク機器の設定、サーバーの構築、セキュリティ設定の点検、緊急時の復旧対応などがあります。これらは自社で対応しようとすると、情報の収集や検証に多くの時間がかかる領域です。外部に依頼する場合も、契約内容や対応範囲を把握しておくことは社内の役割になるため、棚卸しの一覧に委託先の情報も載せておきましょう。
分け方を決めるときは、予算と管理担当者の負担の両方を見てください。外部に任せれば負担は減りますが、費用はかかります。社内で対応すれば費用は抑えられますが、担当者の時間が必要です。どちらが正しいというものではないため、自社の人数や働き方に照らして、無理なく続けられる範囲から始めるのがよいでしょう。
棚卸しを一度で終わらせず続けるコツ
棚卸しは一度実施すれば完了というものではなく、入社や退社、契約の変更のたびに情報が動きます。そのため、日常の手続きと結び付けておくと、大きな見直しを何度も行わずに済みます。入社時はアカウントと端末を一覧に追加し、退社時は利用停止とデータの引き継ぎを記録する、契約を結んだときは契約の表に追記する、という流れを決めておきましょう。
記録の形式は、表計算ソフトの表でも、社内の管理ツールでも構いません。大切なのは、担当者以外が見ても意味が分かる項目名を付けることと、更新した日付と更新した人を残すことです。担当者が一人しかいない状態が続くと、その人が不在のときに誰も状況を把握できなくなります。複数人が同じ一覧を参照できる置き場所を用意しておくと安心です。
見直しの時期は、年度の切り替えや予算編成のタイミングなど、社内で区切りが付きやすい時期に合わせると忘れにくくなります。決めた時期になったら、使われていない契約がないか、管理者が退職者になっているアカウントがないかを確認します。無理に頻度を上げる必要はありません。自社の業務のリズムに合った間隔で続けられる形にすることが、結果的に長く運用できます。
よくある質問
Q. 棚卸しはどのくらいの頻度で行えばよいですか。
A. 決まった回数があるわけではありません。入社や退社の多い時期、年度の切り替え、予算の見直しのタイミングなど、社内で区切りが付きやすい時期に合わせて見直すと続けやすくなります。日常の手続きと結び付けて記録を更新していれば、頻度を上げる必要はありません。
Q. 表計算ソフトしかありませんが、棚卸しはできますか。
A. 表計算ソフトでも十分に始められます。端末、アカウント、契約の3つの表を作り、分かる範囲から記入していく方法が取り組みやすいです。専用の管理ツールは、人数が増えて表の更新が追いつかなくなったときなどに検討すればよいでしょう。
Q. 個人名義のアカウントで業務データを扱っています。すぐに会社名義へ切り替えるべきですか。
A. 退職や担当変更のときに引き継げなくなる恐れがあるため、対応が必要な項目として記録しておきましょう。ただし業務への影響を確認せずに切り替えると、データの移行漏れが起きる場合があります。一覧に載せたうえで、影響の小さいものから順に対応を検討するのが現実的です。
Q. 無料のツールが多く、有料プランに切り替えるべきか判断できません。
A. まずは利用中の人数、業務での重要度、問い合わせ対応の必要性を整理してみてください。判断の基準は会社によって異なりますし、料金や無料プランの範囲はサービスや時期によって変わります。具体的な条件は各サービスの公式サイトの最新情報で確認しましょう。
Q. 棚卸しの一覧にパスワードを書いてもよいですか。
A. パスワードそのものを一覧に書くのは避けたほうが安全です。一覧には管理者名や管理方法の欄を設け、実際のパスワードは別の管理方法で扱うようにしましょう。法令や社内規程に関わる扱いについては、公式の案内や専門家に確認することをおすすめします。